プリンセスになりたいクズ
同じ名前の飲料が飲めないほど、トラウマになっている人間がいる。
そいつ話は改めるとして、そのトラウマを癒そうと試行錯誤していた(いる)時期に出会ったクズの話。ディズニーランドが大好きで、「プリンセスの衣装でグリーティングしているスタッフより自分の方が本物のプリンセス」とのたまっていたから、「プリ子」と呼ぼう。
出会った経緯は省くが、プリ子と私はアマチュアモデルとアマチュアカメラマンという立場だった。当初は「お互に頼み合って撮ったり撮られたり」という関係だった。
プロでもアマチュアでも登録できる、モデルとカメラマンをマッチングするサービスがある。お互いに条件を提示し、有償か無償か、性別は、ヌードOKか、水着OKか、といった絞り込みができるもの。(悪名も含め)有名になればなるほど、有償でたくさんのオファーがあることが、掲載される写真からも見えた。
プリ子はそういった条件に対し、「脱がないと撮ってもらえない女なんて哀れよねププッ」といった発言を頻繁にしていた。しかしアラフォー主婦より肌を出す若い女性に需要があるのは事実。はっきり言って、プリ子はカメラマンに有償でお願いしないと撮ってもらえない立場だった。
そこでプリ子は私に目を付けた。「どうしてもって頼まれたから仕方なく撮らせてあげてるの~人気者って大変★」というストーリーを演出すべく、私が撮ったプリ子の写真を毎日掲載するよう要求し、プリ子を褒め称えるコメントを下書きし、無視すると罵倒のメールを何度も寄越した。
「そういう体」ではなく本気で、私がプリ子の下僕であることを要求した。エレベーターを降りるときに「先に出て扉を押さえてなきゃダメでしょ」と、ショッピングモールで子どもを叱るお母さんのテンションで言われた。
プリ子の都合に合わせて転職するようにも言われた。「私のパート先は日曜と水曜が休みで、旦那が日曜休みだから、日曜は旦那と過ごすって決めてるのね。だから水曜休みの仕事に転職しなよ。そしたら毎週撮らせてあげるから。今の仕事は●●を理由にしたら退職するのも自然だし、次の仕事では●●を志望動機にすれば上手く行くから!」
異常だ。だが、当時の私はその異常さになかなか気付けなかった。苦しいとは思いつつ、何が苦しいのかも言語化できなかった。トラウマはトラウマを呼ぶ。
あるとき、記録のためにサービス内で「撮影に行ってきました」と書いた。それに対するプリ子のコメントは「お疲れ様でした。よく頑張りましたね」。
決壊した。「もう撮らない」とメールした。「それは次の撮影の話で、ディズニーハロウィンの写真は撮ってくれるんだよね?」「いや、もう二度と撮らないしブロックする」そこから何通もメールが来た。「あんたが悪い」「言うことを聞いていればこれからも使ってやるのに」。そんな感じの長文だった。
「頼まれて仕方なく撮影させてあげるワタシ」「毎日写真がアップされる人気者のワタシ」。その設定自体は問題ない。芸能人だって売り出すためにいくらでもやる。
ただし、その設定に他人を無料で付き合わせられると思うところがクズだ。年収1000万円くらい寄越せば、プリ子を絶賛するだけのサイトをいくらでも作ってやる。だがタダでやろうとするなタダで。
後から聞いた話だが、プリ子は専業主婦をしながら不妊治療をしていたものの妊娠に至らず、諦めてパートを始めた経緯があるらしい。プリ子にとって残された自己実現は「美魔女モデルとして有名になる」くらいだったのかもしれない。プライドの高いプリ子には自分から売り出すことは恥だから、何とかして他人を使いたかったのだろう。
だが、タダでやろうとするなタダで。私の人生を消耗品扱いするなクズが。
私のトラウマ治療はまだまだ続く。